VISUAL BULLETS

アメコミをはじめとした海外コミックの作品紹介や感想記事などをお届け

OUR LOVE IS REAL (Image, 2011)

 表紙の背景で犬とセックスしている男がどう見ても Nathan Fillion。(合本になってないことや内容的なこともあり今回は画像なし。悪しからず)

 近未来。エイズの特効薬が開発されたのを機に人々は性別や種族の垣根さえ越えて様々な形の愛を謳歌するようになった一方、未だに自らの価値観と相容れない他者の性愛表現を受け入れきれずいた。獣姦愛好者で武装警官のJokはある日、植姦愛好者達のデモを取り締まる最中に鉱姦愛好者のBrinと出会う。その後、全く異なる恋愛観の持ち主であるにも関わらず Brin に心惹かれていることに気付いた Jok は困惑し……。
 
 あらすじの時点で「姦」という文字を3度使ったことから既にわかる通り内容はまあそういう感じです。現在 Marvel や Image を主な活躍の舞台とするライター Sam Humphries の出世作にして、今なおちょいちょいネタにされる作品(内容が内容なのでわからんでもない)。

 ページにして僅か20ページと少し。サイズも通常のアメコミより一回り小さく、台詞もそれほど多くないため10分もあれば十分読めるかと。大筋や扱っている内容からイメージされるのに反して、 Steven Sanders の見やすい絵柄による性行為の描写はかなりマイルド。少なくとも人同士のセックスはない(……というとむしろ不安を煽るか)。
 
 人の性に見境がなくなっていながら、各々の他者の恋愛観に対する許容度は現在と変わらないという微妙なさじ加減が本作の世界観の面白いところ。 Jok も Brin も(現在の観点からすれば)特殊性癖の持ち主として描かれる Science Fiction だが、単純にヘテロと LGBT の恋物語と置き換えることが可能な Social Fiction でもある。とりわけ Brin の性に関しては最近話題になっている”男らしさ”・”女らしさ”という観点にも触れており色々考えさせられた。

 WONDER WOMAN: EARTH ONE の記事でも触れたが、私個人はそういった”らしさ”含めあらゆる人格というのは服みたいなものとして扱うべきだと思っている。季節や状況、嗜好に合わせて脱ぎ捨てたり着替えたりするべきものだと。春なら明るい柄の服を身に着けるように晴れやかな人格をまとい、冬なら上着を着込むように少し落ち着いた様子を見せるとか。ある人におしとやかな性格だった者が別の人と会う時はマッチョな性格になっても良い。
 とはいうものの言葉で言うほどことはそう簡単でないことも事実だろう。とりわけ上に述べたような状況は男女が平等になり初めて可能なことであって、未だ父権社会が根を張っている世界では難しいことも多いはずだ。性別や年齢にステレオタイプな”らしさ”を求めてくる者も相当いる。男がスカートを履いて街を練り歩いていれば奇異の目で見られることからもわかる通り、社会の一員として生きている限りあまり放埒な人格は周囲から疎まれてしまう可能性が高い。

 しかしだからこそ人格は服のように自由に着脱すべきだ。就職活動にはスーツを着て行き、休日には派手な格好で街へ繰り出すように自分の性格も変えてしまえば良い。それを自らを偽ることだキャラクタリゼーションだという顔をしかめる者もいるかもしれないが、ならそういう奴はいつも素っ裸で他人の前に出ているのかと。凝り固まって身動きが取れなくなるよりマシだ。

 最低限のマナーを守っていさえすれば、服も人格もどんどん好きなものへ着替えればいい。
 あるいはそんなスタンスは見る人が見れば奇特に映るかもしれない。
 別に良いじゃない。
 その好きが自分にとって真実=”Real”なら。