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THE DEMON VOL.2: THE LONGEST DAY (DC, 1994-95)

 EnnisとMcCreaの混沌系暴力が炸裂する悪魔代将軍の大活躍第2弾。


The Demon Vol. 2: The Longest Day

 太古の昔、魔術師Merlinによって一心同体にされた人間Jason Bloodと悪魔Etrigan — 悪を駆逐することで善をなそうとする Blood と、ひたすら暴力を追求する Etrigan は時として共同歩調を取りつつも、しかし常に相手の隙を突いては喉首をかき切ってやろうと互いに互いを監視し合う微妙な関係を保っていた。
 そんな中、間もなく生まれようとするBloodの子供に自らの子を憑依させることで現世に破壊と暴力の大禍を引き起こそうと画策するEtrigan。我が子を守るため、Jasonは以前共闘したことのある暗殺者Tommy Mohaghan a.k.a Hitmanを雇って対策を練る。
 一方その頃、展開では戦争大好きな大天使Karrienが地獄に対して一斉攻撃を仕掛けようと他の天使たちを煽動しており……。

 上記あらすじの通り、前半はJason BloodとEtriganの攻防、そちらの話に区切りがついた後半はKarrien率いる天界と地獄の一大戦争が描かれます。
 クリエイター陣は引き続きライティングをGarth Ennisが、メインのアートをJohn McCreaが担当。前回でも発揮された2人の相性の良さは本巻でも遺憾なく発揮されており、とりわけEnnisの得意とする第2次世界大戦をモチーフにした描写の多い本巻ではその魅力が引き立っています。

 個人的にGarth Ennisに関して、その魅力だと思うことは2つ。
 1つ目 — 比較的わかりやすい方 — は彼の暴力描写。別に私はバイオレンス大好き人間でもないし、あまり残酷な描写を次から次へと見せられるのはむしろ嫌いな方のつもりだけれど、EnnisとMcCreaが本作で描く暴力は通常のそれから受けるような嫌味が全くないのでいくらでもいける。
 何体もの悪魔が入り乱れて土煙を巻き上げながら殴る蹴る様子は一見するとかなりケオティックながら、常にどこかコミカル。首がポンポンポンとテンポよく抜けたり、かちどきを上げた次の瞬間に滅却されるような描写にはLOONEY TUNESなどのカートゥーンで見覚えのある心地良いリズムがある。BUGS BUNNYやWOODY WOODPECKERといった作品の悪戯っぽいドタバタ暴力を大人味に仕上げたよう。

 また、Ennisのもう1つの魅力はその”ざまみろ”感。巧みな権謀術数で敵役をギャフンと言わせることに関してEnnisの右に出るものはおそらくいまい。本作でも相手を完全に下して高らかに笑っていたEtriganが僅か数ページで形勢逆転され、Jason Blood が満面の笑みで歯を覗かせる場面からは胸のすくような思いがした。
 本作の”ざまみろ”展開がお気に召した方は是非ともEnnisの担当した分のHELLBLAZERなんかもお勧め。
 
 この世におびただしい災厄をもたらそうとする一方、身勝手な天界の総攻撃から地獄を守ろうと悪魔たちを率いるEtriganを安易に「アンチ・ヒーロー」などとは呼びたくない。彼はそんなのよりもっと身勝手で無邪気な存在だ。
 まるで気品のかけらもない彼が”悪の皇子”の称号にふさわしい高潔さを帯びているようにみえるのは、彼が真っ直ぐに見えてしまうくらい歪んでいるからであり、またおそらくはその辺りが読者を惹きつけてやまないのだろう。