VISUAL BULLETS

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THINK TANK VOL.2 (Image/TopCow, 2013)

 99%の事実と1%のフィクションからなり、出てくる技術は全て現代科学で実現可能なものという読んでためになるシリーズ、 THINK TANK。今回もバイオ兵器だの3Dプリンタされたドローンだのといった科学技術から、中東情勢や米軍のやり口といったきな臭い話まで特定のギーク共を狙い撃ちしたような知識が盛り沢山でございます。最近アニメ映画が公開された(観てないけど原作は読んだ)伊藤計劃の『虐殺器官』とか好きな方はハマるんじゃなかろか。


原書キンドル版(Amazon): Think Tank Vol. 2

 14の時にDARPAへリクルートされて以来、その半生を研究所の中で過ごしてきた若き天才David Loren博士。紆余曲折を経て脱走に成功したかと思ったのも束の間、一緒に逃げてきたMirraが実はCIAだったことを打ち明けられ、そのショックにより自ら研究所へ戻る。
 2ヶ月後、再び研究に没頭する日々を送っていた彼が軍に提案したのは特定のDNA型のみを標的とする細菌兵器。新たな次世代兵器の使用を巡って様々な思惑が交錯し始める……。

 Vol.1で明かされたMirraの素性について、もっと時間をかけてからDavidに正体が明かされるのかと思いきや本巻最初の数ページであっさり白状。前巻の騒動は何のためだったのやら、Davidは本巻開始時点において何食わぬ顔で元の研究所にいます。読んだ時はちょっと意外に感じたものの、読者にしてみればもう明かされている謎を今更引っ張ることもないのでむしろその潔さや良しといったところ。無論、それでDavidとMirraの関係が終わるわけではなくその後のストーリーを展開させる上で1つのプロペラとなっている。
 Matt Hawkinsのライティングは相変わらず秀逸。ぱっと見だと台詞の量が結構あるし、内容が内容のため科学や政治の解説などもそこそこ出てくるものの、平易にカジュアルに語られるためそれらを読むのはまったく苦じゃない。

 Rahsan Ekedalのアートも前巻の記事でも述べた通り癖がなく、今回もスーパーヒーロー系作品で見るような一枚絵になるインテリア・アートこそないものの、単なる会話シーンにも読者を飽きさせない抑揚らしきものが感じられ淡白な印象を受けることはない。ヴィジュアル・アーティストであると同時にストーリー・テラーとしてもレベルが高く、おそらくMarvelやDCへ行っても普通に活躍できるタイプかと思われる。

 SFの創作論か何かで「1つの作品に用いて良い嘘は1つだけ」という意見を目にしたことがある。代表的な例を挙げるとすればゴジラで、それに拠ると一番最初の『ゴジラ』や2016年に公開された『シン・ゴジラ』が秀逸だったのは映画に登場する”怪獣”という嘘がゴジラ1体だけだったからであり、その後のシリーズは嘘が2体3体と増えるに従いどんどんつまらなくなっていったという。
 個人的には対戦物でも面白い作品はあるし、これだとアメコミにおけるクロス・オーバーの魅力を説明できないためこの論を額面通りに捉えてしまうことは危険だが、一方でクリエイターはフィクションとノンフィクションのさじ加減に注意すべきだということは間違いあるまい。少なくともその割合が作品を通して変化してしまうことはあってはならないだろう。
 その点、本シリーズ『THINK TANK』はDavid Lorenという1人の天才に嘘を限定し、その他のリアリティを徹底的に高めたことにその魅力があると言えるだろう。