VISUAL BULLETS

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『THE ULTIMATES 3: WHO KILLED THE SCARLET WITCH?』 (Marvel, 2007-08)

 名作と謳われる『THE ULTIMATES』もスルーしていればその正統続編である『THE ULTIMATES 2』もドル瓶(売れなかったリーフを$1とかで売ること。要するに在庫品セール)からリーフをいくつか漁っただけ。なのに何故か『3』は合本で所有しているという奇特な人間がこの私です。


キンドル合本版(Amazon): Ultimates 3: Who Killed the Scarlet Witch?: Sex, Lies and DVD v. 1 (The Ultimates trade paperbacks series)

 Lokiからの襲撃を退けた後、米国政府の管理下を離れた21世紀の超人部隊 THE ULTIMATES — 前回の戦いでメンバーが受けた傷は深く、加えて新しくメンバーに加わった Black Panther、Valkyrie、それに Quicksilver と Scarlet Witch もそれぞれ問題を抱えており、彼らは Wasp の尽力によって辛うじてチームの体をなしているに過ぎなかった。そんな彼らを更に追い詰めるかの如く Tony Stark のセックス映像流出、Venom の襲撃、Hank Pym の薬物中毒と災難が連続する。これは偶然なのか。それとも何者かによる計略か?やがて、1発の弾丸が Scarlet Witch に向けて発射される……。

 どれ、まずは状況をさっと整理しようか。
Captain America: どこをほっつき歩いているのか必要な時にいない。
Ironman: 前作で Black Widow の奸計に嵌ったショックから未だ立ち直れず。
Hank Pym: 前回の騒動以来軟禁状態。
Thor: どこの馬の骨ともしれない弱冠19歳の Valkyrie と熱愛中でロリコン呼ばわり。
Hawkeye: 家族を失ったショックで自死願望を抱き、目に入るもの全部へ喧嘩を売るように。Quicksilver と Scarlet Witch: 禁断のインセストへ、さあ行こう!
Panther: 喋らないから何考えてるかさえわからん。てか全部謎。
 ……わお、頑張れ Wasp。
 だいぶ前の記事で今の Marvel は牡丹と薔薇だと形容したことがあったけれど、本作の昼メロっぷりに比べれば全然でした。

 この作品はストーリーでなくアートを楽しむための本です。キャラクターに共感なんてしてはいけません。考える要素なんて皆無です。言ってみればストーリーのあるイラスト集 — 頭すっからかんにしてひたすら Joe Madureira の尖った絵を愛でるのが正しい読み方です。


原書合本版(Amazon): Ultimates 3: Who Killed the Scarlet Witch (New Printing)

 さて、ここまでケチョンケチョンにけなしているように見えるものの、何気に私これアートもストーリーも楽しめました。少なくとも『CIVIL WAR』とかよりは全然面白かったよ。
 Jeph Loeb というライターは作品によって評価に雲泥の差がある人ですが、少なくとも本作では健闘しています。というか彼を除いて Mark Millar がさよならした沼の中からこのチームを掬い上げて作品の形に仕上げられた人はいなかったんじゃなかろか。
 Millar の残した負の遺産とか『ULTIMATE SPIDER-MAN』以外落ち目になりつつあった Ultimate レーベルを『ULTIMATUM』しようとする編集とかの間で板挟みに遭いながら、久々にアメコミの世界へ凱旋してきたMadureiraにもたっぷり見せ場を与えつつ、Spider-man や Wolverineなんかのゲストでファンに対するアピールも……なんて離れ業できるの彼くらいでしょ。
 もし彼に非があるとすれば、それはこれまでの経緯や今後の方針といったコンティニュイティに気を遣い過ぎて描く必要のないものまで描いているからだろう(もっと Bendis みたいに色々無視していいのよ)。
 Loeb が一番輝くのはやっぱり『LONG HALLOWEEN』みたいな、時系列との繋がりが緩めの作品かと。
 
 結論から言ってしまえば本作は保存方法を間違えた高級食材であり、責めは配送業者や冷蔵庫が受けるべきもの — 調理人達には何ら問題がなかったかと思われます。
 故にこの作品は味を堪能しようとしてはいけません。あくまで眺めて「キレイだね」とうっとりするに留めておきましょう。