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『SIX-GUN GORILLA』 (BOOM! STUDIOS, 2014)

 アメリカを代表する動物 — そう言われてまず思い浮かべるのはなんだろう。鷲か。ネズミか。ヒトだなんてしてやったりな顔で言ってるそこのお前、前へ出ろ。
 アメリカを代表する動物、それはゴリラだ。


Kindle版: Six Gun Gorilla #1 (of 6)

 アメリカは過剰なまでのゴリラ好きである。
 有名なのは1933年にスクリーン・デビューを果たした巨大猿だろうが、その他にもちょっと探してみればゴリラに育てられた野生児がおり、超生命体でバナナ好きなゴリラの司令官がおり(あれは一部カナダだけど)、DC最速の男を目の敵にするエスパーゴリラがいる。パルプ・フィクションのマッド・サイエンティストと言えば、ゴリラの用心棒がセットで付いてくるイメージだ。今や日本のゲーム界を代表する存在となったイタリア人の初登場作、そのラスボスがゴリラだったのも、こうしたアメリカのゴリラ愛を宮本茂氏が敏感に感じ取ったからかもしれない。

 だが、確かにゴリラは魅力的だ。あの威圧感と野性味あふれる巨体。あの凛とした表情。何よりサバンナのように広々としてアンデスのように隆々としたあの胸だ。あの胸を拳で叩く様は王者のそれではないか。

 何を隠そう、この記事を書いている筆者も”I ♡ GORILLA”である。

 前置きが長くなったが、今回の作品はそんなゴリラが2丁のリボルバーを手に大活躍する異色作『SIX-GUN GORILLA』だ。

 人生に絶望し、異世界で行われる戦争という名のリアリティ・ショーに兵士として志願した青年、Blue — 戦線の部隊から取り残され、野党に襲われかけていた彼を救い出したのは、2丁拳銃を携えたゴリラであった。

「大きな体」+「2丁の拳銃」=なんという男の理想、なんという至高のロマン!
 皆大好き西部劇ですよ。ポンチョに身を包み、腰に挿した拳銃と自分の腕だけを頼りに世を渡り歩くガンマン — それが何故かゴリラ。

 だが、ゴリラに拳銃持たせてどうすんだとか野暮なことを訊いちゃいけない。疑う者はページを開いてみれば、この組み合わせが意外と相性良いことに気付かされるだろう。

 実はこのゴリラ、本作のオリジナルではない。元々は大昔のダイム・ノベル出身のキャラクターであり、現在はオリジナルの作者も不明となっているマイナーキャラだ。ライターのSimon Spurrierが一体どこでこいつを発見したのかは知らないが、とにかくまずはグッジョブと言おう。

 肝心の内容そのものについても良い感じ。オリジナルとは異なり時代を近未来に移した(ゴリラの存在に説得力を持たせるためか)SF要素が時折話の腰を折るものの、西部劇らしい展開も多いし、アクションと人間ドラマの配分も悪くない。街を後にするガンマンといった西部劇らしいカタルシスもしっかりある。

 アートのJeff Stokelyは実に良いゴリラを描きますな。ゴリラの筋力を活かした、人間とはちょっとちがう重厚でアクロバティックな「ゴリラ」+「アクション」=「ゴリラクション」とでも呼ぶべき絵が大変魅力的。軽く前屈みになりならがら銃をぶっ放す姿は想像以上に躍動感があって格好良い。

 アメコミやパルプ・フィクションの世界では著作権法がゴタゴタしていた時期があったことから本作のオリジナルのようにパブリック・ドメイン入りした作品が少なくない。こうしたオリジナル作品はネットでも読むことができるので興味がある方は探してみると思わぬ出会いが待っているかもしれない。


原書合本版: Six-Gun Gorilla