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100 BULLETS (DC/VERTIGO, 1999 - )


100 Bullets Book One

あらすじ

 収監中に家族を失った女、冤罪で貶められた男、娘を失った母親、父に捨てられた青年……彼らに共通するのはただ1つ — 撃ちたい相手がいること。
 そんな者達に接触を図る謎の男” Agent Graves ”。彼が手渡すアタッシュケースの中に入っているのは標的に関する情報が記された書類一丁の銃、そして追跡不能な100発の弾丸
 力を手に入れた者達はそれを行使するのか。
 そして力をばらまく男の目的とは……?

クリエイター

 ライターの Brian Azzarello は DC や VERTIGO で主に活躍している人物。オリジナル物ではクライムフィクションが多いものの、他にも『 SUPERMAN: FOR TOMORROW 』や NEW52 時代初期の『 WONDER WOMAN 』などスーパーヒーロー物も数多く手がけている。
 丸い眼鏡にアゴヒゲという何ともダンディーなファッションセンスの持ち主で『 WONDER WOMAN 』に登場する Ares は彼自身がモデルだとか(『 KINGDOM COME 』”666”というキャラも。ぱっと見は分からないけれど)。
 
 作画を担当した Eduardo Risso はアルゼンチン出身のアーティスト。こちらもストリート系タイトルを中心に数多くの作品を担当しており、アメコミ業界のみならず本国のコミックシーンでも高い評価を受けている。
 一度見たら記憶に残る特徴的なキャラクター造詣や、濃い陰影を多用するのが特徴的で、目や口といった顔のパーツ以外を真っ黒に塗りつぶして不気味さを演出することもしばしば。
 本作のアートでアイズナー賞やハーヴィー賞など数多くの賞を受賞している。

 カバーを担当しているのは Dave Johnson 。カバーアーティストとして有名な彼は DC 、マーベルのスーパーヒーロー物を始めとした数多くの作品に絵を提供しているので名前を聞いたことがなくとも絵は見たことがあるという人は案外多いかも(『 SUPERMAN: RED SON 』とか)。
 グラフィックアートのような作風で、本作でもひと目で注意を引くようなカバーを数多く手がけている。

解説

 この作品はスーパーヒーロー物だ。スーパーヒーローは一切登場しないけれど。

  元々アンソロジー形式になる予定だった本作は、様々な人物が” Agent Graves ”から過去に自らを貶めた標的に関する情報と一丁の銃、そして追跡不可能な100発の銃弾が入ったアタッシュケースを渡され、復讐を果たすかどうかの選択を迫られるというのが基本パターン。
 1999年から2009年まで連載されたこの作品は2000年代を代表するクライムフィクション作品として知られており、聞いたことがある人も多いだろう。ライターの Azzarello は Jim Thompson David Goodis といったハードボイルド系小説から影響を受けていることを公言しており、それが見事に反映されたネオ・ノワール作品となっている。

 しかしこの作品が他の同ジャンル作品と一線を画しているのは、上でも述べた通りスーパーヒーロー物の手法を取り入れているからだ。

 鍵となるのはやはり謎の男” Agent Graves ”が各話の主人公に渡すアタッシュ・ケース、その中に入った100発の銃弾
 相手を撃っても罪に咎められないこのアイテムは言ってみればスーパーヒーローにとっての特殊能力であると同時にマスクの役目も果たす。
 これによりアタッシュケースを渡された者達は悪を裁く動機を同時に手中にすることとなる。

 スーパーヒーロー物はヒーローが主役のためどうしても活躍が利他的になってしまい、そのヒロイズムが時に胡散臭く感じられてしまうのに対し、本作では”主人公に力を与える人物”をコンスタント(常在)な存在として設定し、各話で主人公が入れ替わるため「パーソナルな動機で悪を裁く」状態が維持できる。
 個人的な事情で動いているため者達の葛藤は良質なドラマを生み、ヒーロー物のオリジンが如きカタルシスをもたらす。

 20世紀初頭に開拓され1930年代から50年代に黄金期を迎えたハードボイルドと、1938年にスーパーマンの登場以来発展し続けてきたスーパーヒーローは実のところ同じ頃に生まれた兄弟のような関係にある米国文化だ。
 しかしスーパーヒーローがハードボイルドを取り入れることはままある一方で、その逆はあまり目にしない。
 
 本作はハードボイルドにスーパーヒーローの要素を取り入れるというコロンブス的な発想で見事大成した作品であるといえるだろう。


100 Bullets Book Two(これは2巻目)

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